★はじめに
 この物語は「世界樹の迷宮3」のストーリーを追いながら展開していくリプレイ式の小説です。
 物語は二人の少年がそれぞれのギルドで冒険をしながら進みます。ゲーム内容のネタバレに関わりますので、未プレイの方、プレイ状況が作者より進んでいない方はご注意下さい。
 システム的な決まりごとでは、サイコロで振った日数ごとにそれぞれのギルドの探索を行います。例えばプレイ前に6が出たらゲーム内日数で6日一方のギルドの冒険を行います。その後サイコロを振り次に3が出たら他方のギルドに切り替えて3日冒険します。ギルドや船はゲーム内では一つしか持てませんので、一つのギルドに統合して物語上別々として扱います。
 それぞれのギルドの活動は、
★ギルド『ツーカチッテ』:通常の小説形式
★ギルド『C.A.S.W』:ギルドメンバー「ナナビー」の日記形式

で綴られていきます。
 二つのギルドと二人の少年の冒険がこの迷宮の果てにどんな結末を迎えるのか、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

六代目 twitter

始まりの6日間(その2)

 目に飛び込んできたのは弾けるように鮮やかな赤と緑だった。
 ここ、アーモロードの迷宮において最も浅い第一の階層は「垂水ノ樹海」と呼ばれている。これは元老院が何らかの通達をする際に実際に使っている呼称であり、公式の物と言って差し支えないものだった。逆に言うと、それくらいメジャーで大したことのない場所であるということだ。未知の深層については呼称はおろかどのような環境であるかすら判然としていないはずだ。
 そんな、この国の冒険者のほとんどが日常的に出入りする場所に降り立って感涙をこらえていたのはナーバンその人である。しかしそれも一瞬のこと、真横にいたエリホにすらそのことを悟らせぬ間に視線は樹海の奥を見つめて鋭く砥がれた。
「行くぞォ!」
 前触れもなく怒号を上げて駆けだすナーバンに少し遅れてエリホが、そして他の面々が続く。が、その進軍は数十歩で強制的に中断された。
 赤く咲き乱れる花の間から不意に飛び出した赤い影。この階層で最も良く見られ、そして弱い魔物、噛みつき魚だった。一般的な魚とは異なる敵意に満ちた目、そして攻撃力に優れた牙がギラギラと光る。
 すぐさま、面々がそれぞれの手に武器を構えて戦闘体制に入ると、待っていたわけではないだろうが魔物は襲いかかってきた。
 切り、突き、噛まれ、叩き、貫き、打ち伏せる。
 ぶつかり、はじかれ、かわし、ふりむき、斬り捨てる。
 数十秒の初戦闘はツーカチッテの勝利であっけなく幕を閉じ、各々の心に何かを残した。
 ある者には手ごたえを、ある者には焦燥を、ある者には恐怖を。
 それぞれの心に落ちたその色はじわじわと広がり、いずれ心を染め上げるかもしれない。しかし今はただ、これから始まる多くの勝利とは確実に違う一勝に自然と誰もが勝ち鬨を上げていた。

 それから数時間の探索は順調そのものだった。いや、順調というのはあくまで工程の問題である。慣れない迷宮内で削られる気力と体力から目を背けて突き進む一行。
「自称冒険者はいらないよ」
 彼らを見るなりそう言った元老院の老婆の言葉に反骨するように、新人とは思えぬほどの速度で白地図は色に満ちていく。そのペースであればあの老婆が一認める「冒険者」としての試験である一階の地図の制作は時間の問題だった。しかしそれはもしその行軍を続けられるのならば、の話である。
 実のところ、誰もがこの無茶苦茶な速度での探索をを支持して行っていたわけではない。ただナーバンに追従するか、あるいはその行為に対し何の感情も抱いていないか、それだけのなし崩し的な強行軍であったのだ。そんなもの、崩れるほうがよっぽど時間の問題だった。
「ちょっと、待ちなさいって! エリホちゃん息切れてるでしょ! あ、ほら後ろの隊列と離れてる! アンタ戦闘になったら後ろに下がるんだからそんなに前にでるんじゃないの! コラ! 聞いてる!?」
 ただ一人不満を隠そうとしないキタツミは声を上げ続けていたが、ナーバンは時折うざったそうに後ろを振り返って舌打ちをするだけだった。それ以外、その目は常に前を、そしてその先を見つめ続けていた。

 問題の時間は案外に早く訪れた。昼前、それまでと違う魔物と遭遇した時のことだった。
 遭遇から数秒、エリホが血に塗れて倒れたのを皆が半ば呆然と見下ろしていた。
「な……」
「走れっ!」
 困惑した声を出したのはナーバン、意識の綱を手放したエリホを抱き上げて絶叫と共に瞬転したのはアワザだ。
 大きな猫のような魔物だった。動きは機敏、攻撃力はそれまでに戦った他の魔物の比ではなく、ただでさえ万全とはいえない状況で、戦闘すれば全滅は確実だった。だからこのアワザの判断は絶対的に正しい。正しいに違いないのにその瞬間のナーバンの表情は暗雲を思わせるものだった。
 それでも、それまで戦闘中でも殆ど声を発していなかった年長者の叫びにナーバンを含めた全員が駆け出す。露に濡れる樹海の木々に汗の玉を飛ばしながら彼らはその日はじめての逃走を試みた。数十歩走って振り返ると、もうその魔物は興味をなくしたかのように踵を返して茂みに消えていくところだった。
「よし、もうよさそうだ」
 それだけ言ってゆっくりとエリホを地に横たえるとアワザはまた口をつぐむ。目線はナーバンを捕えたまま動かない。無言のままに次の指示を促していた。
「ダメ、街に戻って治療するしかないね」
 エリホの様子を見ていたキタツミがそう言うが、歩み寄ったナーバンはまたもその言葉を黙殺する。そして膝をつくとエリホの体を抱え上げ、顔を引き寄せる。
 懐から出したのは、先程探索中に見つけたネクタルだった。
「ちょっとアンタ、まさか」
 封をあけると一気にそれを口に含んで、そのままエリホに口付けて流しこんだ。
 血の気が引いたエリホの顔に生気が戻り目を覚ますとナーバンはすぐさま進軍を指示した。
「ちょ、待って、待ちなさいコラ!!!こんな無茶苦茶な、ネクタルだって貴重品で……ねえ!」
 キタツミは叫んだがやはり無視された。立ち上がったエリホはぼんやり覚えている唇の感覚に呆けながら真っ赤な顔でふらふらとナーバンについていった。シバンポとアワザが表情を変えずにゆっくりと歩き出すと、キタツミはまたも言いかけた言葉をぶら下げたままそのあとに続く他なかった。
 それからも彼らは次々と地図を描いていく。明らかなオーバーペースで。
 日の当たる花畑も、流れ落ちる水が煌く広場も、生い茂った常緑の道も、全てただの記号に変えて紙へと注ぎ込む。罠にかかった小動物も、注意を促す立て看板も、もはや言葉を発する気力もなくなったキタツミも、全て無視し尽くして前へと進んだ。
 日が真上に昇った頃、キタツミとアワザが同時に膝をつくまでその無茶苦茶は止むことはなかった。



もくじ

キャラクター紹介
★冒険記
プロローグA「放たれた少年ナーバン」
プロローグB「受難の少年ナナビー」
始まりの六日間
01 02 03 04 05 06
ナナビーのぼうけん
01 02

前作「ゆぐどらぐらし」
ツーカチッテ

C.A.S.W

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