ナナビーのたたかい(その2)
皇帝ノ月 十五日
今日は船での海路探索、あと漁を半日行ってから樹海に行き、主には僕の採取を行いました。
海も森も探索ペースはゆっくりですが、誰もそのことに異を唱えないのでいい……のでしょうか?
ともかく、連日の漁や採取で段々とギルドのお金も貯まってきました。
お金は、あって困ることはありません。なくて困ることは、沢山あります。
後で読んだらなんだかイヤな感じかもしれないけど、一度お金について思うことを書いておこうかな。
まず、お金は武器と同じものだと思います。
沢山のお金は強い武器と同じ、強い武器は人の心を変えます。
例えば爪楊枝を突きつけられてもいうことを聞く人は少ないですが、ナイフを突きつけられればどうでしょう。銃なら?大砲なら?
つまりはそういうことだと思います。
そしてそれを持った人もそれを使うことに心を奪われる。
強い武器に勝てるのはもっと強い武器だけです。
嫌らしい言い方ですが、だからこそ僕は力も欲しいし、お金も欲しい。
沢山のお金を得るために僕から帰る場所を奪った彼らは、確かに憎いです。
でも、あの時僕がもっとどんな形であれ力を持っていたら彼らも僕に憎まれることなく立ち去ったのではないか、そう考えるのです。
強い武器をちらつかせれば争い自体がおきないことだってあるはずです。それはたぶん、いいことなのではないでしょうか。
死んだら何も残りません。だから命よりも大事などということは言いませんが、それでも間違いなく大事なものの一つなのです、お金は。
なんだか金の亡者みたいですが、嘘偽らざる僕の本心のひとつだと今は感じます。
ただ、やっぱり夢見てしまうのも確かです。こんな考え方を吹き飛ばしてくれるような何かが手に入ることを……。
皇帝ノ月 十六日
今日も半日は海路の探索を行っていました。
それで、その船に乗り込む前に港で噂を聞いたんです。新人ながら結構な速度で樹海を探索するギルドのことを。
でも何故かそのギルドの活動はなんだか不定期で、いや、それ自体は気ままな冒険者にはよくあることらしいのですが、どうもそのギルドはメンバーすらその日の活動をするかどうかわからないというおかしな事になってるんだとか。聞いた話だとワンマンのリーダーが突然居なくなる事があるらしく、そのせいで折角の実力を発揮できていないのではないかとのことでした。
ゆっくりながら毎日活動している僕らとどちらがいいのかはわかりませんが、なんにせよそんな勝手なリーダーのいるギルドはいやですね。うちのモッズさんのようになんいうかおおらかな人がリーダーだとやっぱり雰囲気もよくなると思いますがきっとそのギルドはギスギスしているんだろうなあ……。
そんなことを考えながら船に乗り込み、今日の探索を始めました。
海路の探索は順調で、木材から保存食、魚までいろんなものを手に入れて僕たちはホクホクで港へ戻りました。
夕方からの探索は迷宮に入り、二階をどんどんと進み魔物をどんどんと蹴散らしてついに三階への階段へと辿り着きました。
「やったー!」
僕は思わずガッツポーズをとっていました。
「うん、やっぱり筋はいいんだよな」
モッズさんが僕の頭をぼすぼすと叩きました。
「ありがとうございます。あ、でも……」
その時、僕は思いだしました。朝に聞いた奇妙な新人ギルドの話を。そしてやはり少しだけ疑問に思って聞きました。
「あの、うちのギルドって結構ゆっくり進んでますよね」
「ん? あー、まあもっと早い連中はいるなあ」
「焦りとかないんですか? その、先に迷宮を制覇されるかもしれない、とか」
「あー……なんつーかさ、この国の迷宮って俺の尊敬する賢者ノージが挑んだハイ・ラガードのとかと違ってあんまり人気ないんだよ。一応この下に沈んだ都市があるなんて伝承はあるけどさ、たとえば願いを叶える聖杯があるとか国が大々的に呼び込んでるとかそういう魅力が結構薄いんだよ。だから結構なんていうか、挑んでる連中は物好きが多いんだよ。名誉が欲しいとか富が欲しいとかじゃなくて、冒険がしたい、達成感が欲しい、腕試しがしたい。バラバラなんだよな」
モッズさんはその下に広がる未知の迷宮に響かせるように地面をダムダムと踏み鳴らして僕に言いました。
「ええと、うまくまとまんないな。テンマ、パス」
「えっ」
話の終着点を決めていなかったのか、そのままだらだらと言葉を続けていたモッズさんは急にテンマ君に振りました。
「えっとですね、つまりは各々の目的のために挑む人間が多いので焦りを生むということ自体が少ないのではないでしょうか。僕もさっきリーダーが言ったように冒険がしたくて、腕試しがしたい部類に入るのでやはりあまり、焦りはないですね」
「そういうもの……なんですか」
僕はどうにも腑に落ちなくて首を傾げます。なんで焦らないのでしょう? 先に進む事を急がないのでしょう?
考え込む僕を見てサカシノさんが声をかけてくれました。
「もしナナビー君が急ぎたいなら急いでもいいのよ、皆の了解を取ったらね」
「え、あ? ……はい」
言われて気付きます。なんで僕は焦っているのでしょう? みんなとの冒険は楽しいです。自分の辛い境遇もみんなといると忘れられる。
万が一の話ですがもしこの迷宮を制覇したらきっとギルドは解散するでしょう。そしたらみんなとはお別れです。そんなことは……望んでいないはずなのに?
「とはいっても、今の実力じゃだれも賛成してくれないから、もっとがんばらないとね」
「そうですね! がんばります!」
サカシノさんの言うことはもっともでした。確かに今の僕には焦ったところでどうにかなる力すらありません。
なにをするにももっと強くなってからです。うん、とりあえずはみんなに追いつけるくらいがんばろう。そう考えました。
「毎日欠かさず皆さんと一緒にがんばってるんですから、きっと今に追いつけますよね!」
「えっ……?」
不思議そうな顔をしました。誰もが、僕以外の全員がです。
「あ、そっか、ずっと一緒だったら僕が強くなった分皆さんも強くなるんですよね。うっかりでした」
とりあえず思い当たった理由を口にしてえへへと笑い、頭をかきました。でもそれがみんなの困惑の理由でないのは明白でした。だってみんなはそのあとも不思議そうな顔を続けていたのですから。
ナンナンが鳴いています。
僕は何かおかしなことを言ったのでしょうか……? 帰ってきてからずっと考えていますが思い当たりません。
うーん、考えすぎでしょうか。なんだか眠くなってきたので考えるのはまた明日にします。
ナンナンの鳴き声が子守唄のようで、今日はよく眠れそうです。