★はじめに
 この物語は「世界樹の迷宮3」のストーリーを追いながら展開していくリプレイ式の小説です。
 物語は二人の少年がそれぞれのギルドで冒険をしながら進みます。ゲーム内容のネタバレに関わりますので、未プレイの方、プレイ状況が作者より進んでいない方はご注意下さい。
 システム的な決まりごとでは、サイコロで振った日数ごとにそれぞれのギルドの探索を行います。例えばプレイ前に6が出たらゲーム内日数で6日一方のギルドの冒険を行います。その後サイコロを振り次に3が出たら他方のギルドに切り替えて3日冒険します。ギルドや船はゲーム内では一つしか持てませんので、一つのギルドに統合して物語上別々として扱います。
 それぞれのギルドの活動は、
★ギルド『ツーカチッテ』:通常の小説形式
★ギルド『C.A.S.W』:ギルドメンバー「ナナビー」の日記形式

で綴られていきます。
 二つのギルドと二人の少年の冒険がこの迷宮の果てにどんな結末を迎えるのか、最後までお付き合いいただけましたら幸いです。

六代目 twitter

ナナビーのたたかい(その2)

 皇帝ノ月 十五日

今日は船での海路探索、あと漁を半日行ってから樹海に行き、主には僕の採取を行いました。
海も森も探索ペースはゆっくりですが、誰もそのことに異を唱えないのでいい……のでしょうか?
ともかく、連日の漁や採取で段々とギルドのお金も貯まってきました。
お金は、あって困ることはありません。なくて困ることは、沢山あります。
後で読んだらなんだかイヤな感じかもしれないけど、一度お金について思うことを書いておこうかな。

まず、お金は武器と同じものだと思います。
沢山のお金は強い武器と同じ、強い武器は人の心を変えます。
例えば爪楊枝を突きつけられてもいうことを聞く人は少ないですが、ナイフを突きつけられればどうでしょう。銃なら?大砲なら?
つまりはそういうことだと思います。
そしてそれを持った人もそれを使うことに心を奪われる。

強い武器に勝てるのはもっと強い武器だけです。
嫌らしい言い方ですが、だからこそ僕は力も欲しいし、お金も欲しい。
沢山のお金を得るために僕から帰る場所を奪った彼らは、確かに憎いです。
でも、あの時僕がもっとどんな形であれ力を持っていたら彼らも僕に憎まれることなく立ち去ったのではないか、そう考えるのです。
強い武器をちらつかせれば争い自体がおきないことだってあるはずです。それはたぶん、いいことなのではないでしょうか。
死んだら何も残りません。だから命よりも大事などということは言いませんが、それでも間違いなく大事なものの一つなのです、お金は。

なんだか金の亡者みたいですが、嘘偽らざる僕の本心のひとつだと今は感じます。
ただ、やっぱり夢見てしまうのも確かです。こんな考え方を吹き飛ばしてくれるような何かが手に入ることを……。


皇帝ノ月 十六日

今日も半日は海路の探索を行っていました。
それで、その船に乗り込む前に港で噂を聞いたんです。新人ながら結構な速度で樹海を探索するギルドのことを。
でも何故かそのギルドの活動はなんだか不定期で、いや、それ自体は気ままな冒険者にはよくあることらしいのですが、どうもそのギルドはメンバーすらその日の活動をするかどうかわからないというおかしな事になってるんだとか。聞いた話だとワンマンのリーダーが突然居なくなる事があるらしく、そのせいで折角の実力を発揮できていないのではないかとのことでした。
ゆっくりながら毎日活動している僕らとどちらがいいのかはわかりませんが、なんにせよそんな勝手なリーダーのいるギルドはいやですね。うちのモッズさんのようになんいうかおおらかな人がリーダーだとやっぱり雰囲気もよくなると思いますがきっとそのギルドはギスギスしているんだろうなあ……。

そんなことを考えながら船に乗り込み、今日の探索を始めました。
海路の探索は順調で、木材から保存食、魚までいろんなものを手に入れて僕たちはホクホクで港へ戻りました。
夕方からの探索は迷宮に入り、二階をどんどんと進み魔物をどんどんと蹴散らしてついに三階への階段へと辿り着きました。
「やったー!」
僕は思わずガッツポーズをとっていました。
「うん、やっぱり筋はいいんだよな」
モッズさんが僕の頭をぼすぼすと叩きました。
「ありがとうございます。あ、でも……」
その時、僕は思いだしました。朝に聞いた奇妙な新人ギルドの話を。そしてやはり少しだけ疑問に思って聞きました。
「あの、うちのギルドって結構ゆっくり進んでますよね」
「ん? あー、まあもっと早い連中はいるなあ」
「焦りとかないんですか? その、先に迷宮を制覇されるかもしれない、とか」
「あー……なんつーかさ、この国の迷宮って俺の尊敬する賢者ノージが挑んだハイ・ラガードのとかと違ってあんまり人気ないんだよ。一応この下に沈んだ都市があるなんて伝承はあるけどさ、たとえば願いを叶える聖杯があるとか国が大々的に呼び込んでるとかそういう魅力が結構薄いんだよ。だから結構なんていうか、挑んでる連中は物好きが多いんだよ。名誉が欲しいとか富が欲しいとかじゃなくて、冒険がしたい、達成感が欲しい、腕試しがしたい。バラバラなんだよな」
モッズさんはその下に広がる未知の迷宮に響かせるように地面をダムダムと踏み鳴らして僕に言いました。
「ええと、うまくまとまんないな。テンマ、パス」
「えっ」
話の終着点を決めていなかったのか、そのままだらだらと言葉を続けていたモッズさんは急にテンマ君に振りました。
「えっとですね、つまりは各々の目的のために挑む人間が多いので焦りを生むということ自体が少ないのではないでしょうか。僕もさっきリーダーが言ったように冒険がしたくて、腕試しがしたい部類に入るのでやはりあまり、焦りはないですね」
「そういうもの……なんですか」
僕はどうにも腑に落ちなくて首を傾げます。なんで焦らないのでしょう? 先に進む事を急がないのでしょう?
考え込む僕を見てサカシノさんが声をかけてくれました。
「もしナナビー君が急ぎたいなら急いでもいいのよ、皆の了解を取ったらね」
「え、あ? ……はい」
言われて気付きます。なんで僕は焦っているのでしょう? みんなとの冒険は楽しいです。自分の辛い境遇もみんなといると忘れられる。
万が一の話ですがもしこの迷宮を制覇したらきっとギルドは解散するでしょう。そしたらみんなとはお別れです。そんなことは……望んでいないはずなのに?
「とはいっても、今の実力じゃだれも賛成してくれないから、もっとがんばらないとね」
「そうですね! がんばります!」
サカシノさんの言うことはもっともでした。確かに今の僕には焦ったところでどうにかなる力すらありません。
なにをするにももっと強くなってからです。うん、とりあえずはみんなに追いつけるくらいがんばろう。そう考えました。
「毎日欠かさず皆さんと一緒にがんばってるんですから、きっと今に追いつけますよね!」
「えっ……?」
不思議そうな顔をしました。誰もが、僕以外の全員がです。
「あ、そっか、ずっと一緒だったら僕が強くなった分皆さんも強くなるんですよね。うっかりでした」
とりあえず思い当たった理由を口にしてえへへと笑い、頭をかきました。でもそれがみんなの困惑の理由でないのは明白でした。だってみんなはそのあとも不思議そうな顔を続けていたのですから。

ナンナンが鳴いています。
僕は何かおかしなことを言ったのでしょうか……? 帰ってきてからずっと考えていますが思い当たりません。
うーん、考えすぎでしょうか。なんだか眠くなってきたので考えるのはまた明日にします。
ナンナンの鳴き声が子守唄のようで、今日はよく眠れそうです。


ナナビーのたたかい(その1)

 皇帝ノ月 十四日


今日もまた、一階を探索しました。
先日モッズさんは出来れば二階へ上がろうと言ってくださったのですが、今日の僕はそれを断りました。
もちろん意味もなくではなく、「なんとなく上の階へ進む」というのがはばかられたのです。
何か上へ行っても大丈夫、そう思えることが必要で、その証拠、確証……素直に言えば自信が欲しかったのです。
「確かに……時間空けてすぐに次の段階ってのも問題か。賢者ノージ曰く『戦いに於いて足手まといなのは力のない者では無い。覚悟の無い者だ』ってな。君自身に覚悟がなければ力があってもかえって危険だってのには同意だ。そうだな、それじゃあ……」
モッズさんの提案は単純かつ、今の僕には非常に恐ろしいものでした。しかし、それができるならば確かに僕は自信が持てるだろうと思ったので承諾しました。
「あのヤマネコをぶっ倒してやろうぜ」


樹海に入ってしばらく歩くと、案の定何度も僕が背中を見せたあのヤマネコの姿が見えました。
「い、行きます!」
「おう!」
僕は陣形の都合上後ろからですが気合を入れました。モッズさんが皆に説明してくれたので、今回は逃げることはせず真正面から立ち向かいます。
こちらに気づいたヤマネコが地をひと蹴りすると一瞬のうちに互いが戦闘の間合いになりました。先に発見したのは僕たちでしたが、攻撃を仕掛けるのは向こうの方が早く、後手を選ばざるをえなくなりました。
まず一撃、サカシノさんが盾に攻撃を受けました。大きな体から繰り出される爪の一撃は盾ごしであってもサカシノさんをひるませるだけの威力があるようです。
「くっ」
と小さく声を漏らしたのを合図にしたように全員が攻撃を仕掛けます。
テンマ君が刀で切りつけ、動きを止めたところにコーヴィアちゃんの術が当たります。さらに怯んだ隙に至近距離からモッズさんの弩、そして僕の小剣もあまり深くはありませんがヤマネコの皮膚を切り裂くに至りました。
ぞ、と重い手ごたえが手に伝わりました。
今まで倒してきたドリアンや魚とは違う、哺乳類の皮膚を斬る感触に一瞬の戸惑いを感じましたが手負いになったヤマネコはそんな逡巡を許してはくれません。
狩りをする動物は群れの中で一番弱い者を狙う、とお父さんから聞いたことがあります。
先ほどは先制攻撃を仕掛けたため一番手近なサカシノさんに攻撃したようですが、今度は違います。パーティーで一番弱い僕が狙われたのは当然でした。
「ナナビー!」
サカシノさんが咄嗟に盾を突き出したおかげで僕に届く爪が若干逸れました。しかし外れはしなかったのです。
血が出ていました。今までの小さな傷とは比べ物にならないはっきりとした流血が、くっきりと刻まれた腕の爪痕から。
いままで皆さんがこのヤマネコとの戦いを避けていたのはつまりこういうことです。
僕が狙われれば守りきれない、守りに専念したら倒せない。おそらく僕がいなければ皆がそれぞれの役割を分担するだけで倒せる相手なのです。
だから、だからこそ僕は叫びました。
「大丈夫です!というか、今です!」
ヤマネコは一番弱い僕をしとめきれなかったと見るやもう一撃を加えるべく構えました。しかしそれを許すほど、僕の仲間は甘くはありません。
がら空きの胴体に突き刺さる刀、顔面を焼く炎、撃ち抜かれる脳天。おそらくは絶命させていたでしょう。しかし、振り上げた爪は重力にしたがって僕へと落ちてきました。
モッズさんが叫びました。
「とどめだ!ナナビー!」
「はい!」
なんとか取り落とさずにいたナイフを反対の手に投げるように持ち替えて、崩れ落ちるヤマネコの胸にむけて突き上げました。
ずぶりという、皮を裂き肉を貫く独特の感触のあとにずしりとした重量感、というかそのまま倒れこんできたヤマネコの体の下敷きになってしまいました。


「大丈夫か?」
「いててて……あ、だ、大丈夫です!」
ヤマネコの下から引っ張りだされてそう問われ、腕の傷を見ると急に痛みが襲って来ました。血もまだ止まっていません。
「よくやった、どうだった?」
「えと、夢中でよく、わかりません」
正直に答えると、モッズさんがニヤリと笑いました。
「わからなかったかー、じゃあしょうがないよな?皆」
「モッズさんは意外と意地悪ですよね」
テンマ君が困ったように笑います。
「あまりやり過ぎないでくださいね」
「ここからは慣れの問題なのです」
メディカを僕に差し出しながらサカシノさんがモッズさんに笑い、コーヴィアちゃんが得意げに笑いました。
僕は受け取ったメディカを飲み干しながらも事態は全く飲み込めずに、それを他人事のように眺めていました。
そして傷の回復を見たモッズさんが笑いながら僕に言いました。
「んじゃ、もう一匹な」
「はぁ、えっ?」
モッズさんが指差した方向にこちらの様子をうかがっている別のヤマネコがいるのが小さく見えました。
「さあ、自信つくまで狩りまくるぞ!」
「え、ええ!?」
そうして、結局今日は暗くなるまでずっとヤマネコ退治を繰り返していました。
何度かピンチになる場面もありましたが、潔く逃げたりなんとか立て直したり、ともかく狩りまくりました。


あれだけ何度も倒したのに、今この手に残っているのは最初のあのヤマネコにトドメを差した時の感触です。
「もう大丈夫……です」
「そうか、じゃあ今日はこんなところだな」
もう消えてしまった傷跡のあった場所を見つめ、荷物から小剣を取り出してブンブンと振ってみました。
「明日からは二階でがんばるです」
「うん」
宿で持つ小剣は冒険中とは比べものにならないくらいに重く感じます。
「油断はしないでくださいね。慣れは慢心を生みますので」
「わかりました」
でも、あれは、あのヤマネコの重みはこれとは違うものでした。命の重みでした。
「気にしないで、とは言いませんが……これが冒険者という生き方なのですよ」
「……はい」
サカシノさんが言ったのはこのことでしょう。
皆のフォローで精一杯だった僕が始めて今日、本当の意味で戦い、敵を倒したのだと思いました。
これからの冒険で僕は何十何百という魔物を葬って進むのかもしれません。その時でも、今日の気持ちを忘れずにいたいと思います。
それが魔物であっても、その未来を奪うことに対する覚悟。僕に足りなかったのは上の階に行く心構えなんかじゃなく、きっとこれだ。
ナンナンが鳴いています。
今日は疲れました。もう寝ることにします。


皇帝ノ月 十五日


今日はついに二階へ行きました。
結果から書くと順調そのもの。
一階から思ったほどの差はなく、一部の魔物が大きいものになっていたり、群れの規模が大きくなっていたくらいで倒せないものは殆どいませんでした。
ただ一種類、巨大な体に巨大なくちばしを持った緑色の怪鳥だけは撤退を余儀なくされました。
テンマ君が言うには
「一階でヤマネコと渡り合えるようになった冒険者が次につまづく相手です。僕らも殆ど正面からは戦っていないです」
とのことで、倒せるがリスクが大きいので不意をつけた場合だけ排除する方針とのことです。


ああそうだ、二階にはもう一種どうしようもない魔物がいるのでした。
毒を撒き散らす大蜥蜴です。
上の巨大な鳥とは全く違います。挑めば必ず負ける相手だと、皆言っていました。死ぬと分かっている相手と戦うのは冒険ではなく無謀とも。
しかし、そんな話をしながらも皆の目は後ろを見てはいませんでした。いつか絶対に倒す、倒せるようになるという決意が見てとれる目でした。
だから僕もそう願って努力します!


二階を三分の一くらい探索して本日は終了です!


ナナビーのぼうけん(その2)

皇帝ノ月 九日


 現在昼休憩中です。
 今日は黙々と一階で探索と採取をしていました。まだまだ例のヤマネコからは逃げっぱなしですが、それ以外の魔物とはかなり渡り合えるようになってきました。もちろん他の皆さんはこともなげに倒せるのですが僕のために遠慮して弱った敵を残したりしてくれているのがわかります。
 前にも書いたように、そのことについてうじうじするのはやめようとは思いますが、せめて早くみんなの足をひっぱらないようにだけはしたいです。あとは、うーん、僕はどんな冒険者になればいいんだろう。
 例えばモッズさんはバリスタですがみんなを守れるようになりたいので前に出ると言っています。その分危険も多いですが本人はそれでいいと言います。他の人もそれぞれに目指すものがあるようですが、僕にはそれはありません。ただ、漠然と強くなりたいと思っているだけ。冒険者としては、それではいけない気がします。
 冒険を始めて三日……まだこんなことを考えるのは早いのかなぁ。まだ三日かぁ。なんだか随分長く、あれ?ナンナンが鳴いています。


 夜です。
 夕方からはずっとまた海の上でした。なんでも昨日船に乗っている時に僕がもの思いにふけっているように見えたんだそうです。だからなのか、話を聞くなら船の上の方がいいと思ったとかで、確かに僕がぼーっと星を眺めていたらみんながかわるがわる話しかけてくれました。
 モッズさんとサカシノさんとは他愛のない話を。
 その次に来たのはテンマ君。
「ナナビーさんは、亡くなったお父さんのことどう思ってました?」
 突然の質問に面くらいました。でも多分、僕はお父さんのことを話したくなっていたのでしょう。すぐにすらすらと返事が出来ました。
「尊敬してました。いつかお父さんみたいになりたいと思っていました。お父さんからは無理だって言われてましたけどね。……テンマ君は?」
「同じですね、僕も父上を尊敬しています。でも父上は『お前は俺と同じになる必要はない』って。旅に送りだしてくれた時も最後まで父上が反対していたそうです」
「お父さんもシノビなんですか?」
「いや、違うんですが、ええと、複雑なのでそのへんはちょっと……ともかく、尊敬していますし誇りに思います。それは間違いありません」
「僕もです。お父さんは……僕の人生のお手本でしたから」
 思いだして、空を見上げます。キラキラと光る星は今にも落ちてきそうなほど眩くて、なんだか目に沁みました。
「でも、うちの場合は母上もよく言ってましたよ。『父さんは立派だけど、単純で鈍感で女心がわからない方だからそこは見習っちゃだめよ』って」
「あははは、それはなんていうか」
「おもしろいですよね」
 僕らは笑いました。笑いすぎて、涙がこぼれました。
 テンマ君が去った後、コーヴィアちゃんが来ました。
「ナナビーさんは、何になりたいですか?」
「えっ、ええと、それ、モッズさんが聞いてこいって?」
「いいえ? モッズさんからはただ『ナナビーと話をしてやってくれ』って言われましたですよ」
 なるほど、つまりその前のテンマ君もコーヴィアちゃんも、僕の心の中にあるもやもやの原因をなんとなく感じ取って話してくれていたというわけです。と言うか僕がわかりやすいのかな……。
「そうですか、僕は……昔はお父さんみたいになりたかったんです」
「お父さんみたいに?」
「ええ、さっきテンマ君にも言いましたけど、お父さんが僕の人生のお手本でしたから」
 するとコーヴィアちゃんが満面の笑みで手を握ってきました。その手はあんなに強い術を撃てる女の子とはとても思えないくらい華奢で驚きました。
「私と一緒なのです! 私も母さんたちみたいになりたいのです」
「テンマ君も言ってましたよ。けど……」
「けど、なんです?」
「結局、お父さんは全てを失ったんです。自分が築いた家も農場も家族も全部。それはもちろん僕のせいなんですけど、何も残ってないお父さんの人生って、正しかったのかなって、ちょっとだけ思っちゃって」
「それは……違うと思います」
 コーヴィアちゃんが握っていた手に力を入れて言いました。
「ナナビーさんが残っています、生きてます。農場は、いずれ取り返すことも出来るです。命は返りません。ナナビーさんが立派に生きることが、多分ナナビーさんのお父さんが残した人生の証拠です」
 はっとなりました。
「母さんは言いました『あなたは私達の娘だけど、あなたなの。あなたらしい人生はあなたがみつけるの』って。ママが言いました『親を越えてこそ子供、さあ私を倒してみよー』って」
「自分らしい人生……ですか。親を超える……です……か」
 少し考え込んでいると、コーヴィアちゃんは手を離して船室に戻ると言いました。
 僕はまだ星を見ていると言って、甲板に寝転がりました。


 答えはまだ出てきません。でも一つだけは決めました。どう生きるか、それはきっと今の僕には早すぎる悩みなのです。
 だから頑張ります。頑張って生きます。それだけは決めました。死んじゃったら、何もなくなっちゃうから。お父さんが残してくれたものが全部なくなっちゃうから。
 頑張って、生きます。なくさないように、消さないように。

 

皇帝ノ月 十日


 今日は一日樹海でした。
 なんだか今日はのんびりした探索な気がしてそう言ったら
「ペースは昨日と変えてない、それは君が強くなってきている証拠だ」とモッズさんに言ってもらいました。
 途中、二度ほど魔物の少ない陽だまりで休憩をしました。その時に言われたのですが、やはり僕の体力や適応力は予想外なのだそうで、普通なら一階を悠々と歩けるまでに一週間くらいはかかるだろうとのことです。これが農場での経験で培われたものなのだとすれば、きっとこれもお父さんが僕に残してくれたものなのでしょう。

 明日以降は、もしいけるなら二階に上ろうとみんなが言ってくれました。
 なんだか嬉しいな、明日が楽しみです。


ナナビーのぼうけん(その1)

 皇帝ノ月 七日


 今日から、ついに僕の冒険者としての新しい人生が始まります。
 モッズさんからいただいた装備品を身につけて、いざ出発です!
 ナンナンが鳴いています、うーん……連れていっていいものなんでしょうか?


 現在昼過ぎです。
 僕が今日はじめてと言うことで、まずは簡単に樹海のイロハを教えていただくことになり、一旦戻ってきました。
 朝のミーティングではC.A.S.Wの皆さんと自己紹介をし合いました。
 モッズさんは前にも書きましたがバリスタ。頼りになるお兄さんという感じです。探索でも皆さんをぐいぐい引っ張っています。
 サカシノさんはファランクス。女性の方ながら重い装備で前線に立っていてすごいと思います。でも物腰の柔らかな優しそうな方です。
 テンマくんはシノビ。女性のシノビ(東方の国ではくのいちと言うそうです)の姿ですが男の子。理由はいろいろあるそうですが、とりあえず祖国のしきたりだということはわかりました。僕より年下ですがしっかりとした子に見えました。
 コーヴィアちゃんはゾディアック。テンマくんよりさらに年下の女の子です。ですが、立派に戦っていました。というか、星術の威力は誰の攻撃より強くてびっくりです。
 次の探索は夕方からなので体を休めておくように言われました。寝過ごさないよう気をつけながら休むことにします。
 あ、ナンナンについてはモッズさんが、
「そいつが責任を持てるならよし、そうでなければ君が責任を持て。賢者ノージ曰く『今、オレ達は……太陽と一緒に戦っている!』ってな。その子が君の、もしくは君がその子の太陽だというのならば、ずっと一緒にいたいだろ?」と言ってくださったので同行させていただきました。
 モンスターに出会うと荷物の影に隠れてしまいますが、お邪魔をすることもないのでよかったです。
 今「よかったね」と言ったら眠そうな顔で返事をしてくれました。
 僕も休みます。


 現在深夜です。
 今日のことをもうちょっときちんとまとめようと思います。
 まず朝、上にもちょっと書いたように自己紹介と今後のことを話し合いました。皆さんとても優しそうな方ですごく安心しました。今後のことというは結構簡単な話でした。
 皆さんはすでにそこそこの階まで探索を済ませているのだそうですが、僕が完全な初心者だから少しの間は探索に慣れるためにも一階をうろうろしようとのことでした。僕のために皆さんの探索が滞るのは本当に心苦しかったのですが皆さん笑って「頑張って」と言ってくださったので少し気が楽になりました。
 それと、モッズさんが「賢者ノージ曰く、『全は一、一は全』お前さんを加えると決めた時からオレたちゃ一つなんだ。未熟結構、その未熟なお前も含めてのこのギルドなんだからな」と言ってくれたので、もうそのことについてなにか言うのはやめようと思います。言うほうが失礼だと思いますので。
 それに今日の夕方にはサカシノさんにも褒めていただきました。
「随分とタフだし、見た目よりずっと度胸がありますね。普通は探索初日だったらもっとオドオドするものだし、緊張で数時間もいられない方もいるんですよ。私なんてヒドかったんですから」
「確かに、盾持ってられないくらいにガタガタになってたのは参ったもんだ。やっぱ農場暮らしってのは体力つくもんなんかね」
 モッズさんがからかうとサカシノさんは顔を赤くしていましたが、自分で言い出したので何も反論できないようで皆さん笑っていました。
 笑っていいのかわからないでいるとサカシノさんが、
「もう、モッズさんヒドいですよね」
 って微笑みかけてくれたので僕も笑いました。
 皆さん本当にいい人たちです。なんだか、頑張れそうです。
 ナンナンも皆にかわいがってもらってるし、よかった。本当によかったです。

 

 

皇帝ノ月 八日


 今日は朝のミーティングでモッズさんが「船も乗ってみるか?」と言ったので、昼過ぎまで海の上にいました。
 なんでも、元老院に認められた冒険者はあまり大きくはないですが船を支給されて、近海の探索も行うように言われてるのだそうです。
 港に行ってみると、確かにあまり大きくはないですが近海を回るには充分に立派な船が停泊していました。
「いい船だろ、『ラインオブミドゥ』ってんだ」
「ご飯がもたないから遠出できないのです」
 コーヴィアちゃんが言う通り、まだ遠出をするには保存食が足りないそうで、そういう技術を見つけて回るのも海を探索する目的の一つなんだそうです。でもモッズさんが言うには、いきなり遠くまで行かせたら危ないからある程度の食料があっても渡さないんだろうと言っていました。
 確かに、良く考えればうちで作っていた干し肉を持ってくるだけで結構な日数が賄えるはずなのでそういう部分はあるのだと思います。
 でも久しぶりに出た海の上はすごく気持ちよかったです。
 お父さんが生きていた頃は、知り合いの漁師さんの船に乗せてもらった事もあったっけ。


 それで、夕方からはまた少し樹海の探索をしに行ったのですが、昨日連れて言ってもらった場所で、使える素材が採れそうな場所があったのでそこへ連れて行ってもらいました。あまり大したものではありませんが、薬の材料になるものなども採れたので冒険者が樹海で手に入れたものを売りに行くと言うお店の店主さん、ええと、ネイピア商会というところだったと思います、そこの店主さんにも感謝されました。
 C.A.S.Wにはこういうのが出来る人がいないのだそうで、皆さんすごいすごいと言ってくれて、なんだかくすぐったいけど嬉しかったです。小さい頃から教わっていた知識が役に立って、海の上のことと合せてなんだかお父さんのことを思いだしてしまいました。
 ちょっとだけ、寂しいです。
 でもナンナンもしるし、何より今はC.A.S.Wの皆がいてくれるので大丈夫です!
 そういえば、今日は探索中に大きなネコに襲われました。
 みんな一瞬戸惑って、それから逃げました。多分アレは、僕がいると危ない相手だったんだと思います。皆さんだけなら勝てるのに、僕をかばってる余裕がなくて逃げた、そう見えました。
 強くなりたいです。心も体も。
 皆の足手まといにならないくらいに、それと、理不尽なことにイヤだと言えるくらいに。
 お父さんの農場を、いつか取り返せるくらいに……なれたらいいな……


プロローグB「受難の少年ナナビー」

?月?日
 今、僕は全く自分の置かれている状況に整理がつかないので、いつものように日記を書いて気を落ち着かせることにしました。
 まず今日のことを書く前に一昨日のことから書きます。いや、もしかしたら一昨日じゃないかもしれません。今が何月の何日なのかわからないので、もしかしたらずっと前のことかもしれないのですし。
 なのでとりあえず、事の発端から整理するのがいいと思いますのでそうします。それがいい。

 その日、お父さんが亡くなりました。
 と言っても突然のことではなく、ずっと具合が悪く臥せっていたのがついにということなので心の準備はできていました。
 準備ができていなかったのはその後のことです。
 毎日のように病床に押しかけていた連中が僕に押しかけてきたのです。
 お父さんは農場の経営者でした。お母さんは僕が生まれて間もなく亡くなったそうですが、農場の動物達に囲まれていた僕は、たまにしか寂しくありませんでした。アーモロード一の大農場なのだと、元気な頃お父さんはいつも自慢げに言っていました。
 ただ、僕は動物には好かれるが経営の才能がないので友人の経営者に譲ろうか、とも話していました。

 押しかけてきた連中は、その友人は譲渡を断ったと、よくわからない書類を僕の顔に押し付けました。そして、この農場の権利を買い取ると、一方的に言ってきました。
 経営の能力がないと言われた僕でしたが、お父さんから聞いた話の端々から自分の家の農場の価値くらいはわかっていました。
 彼らがテーブルに叩きつけた皮袋に入っていた金貨はそこいらの土地と家が即金で買えるほどの額でしたが、それがお父さんの農場の価値には程遠い額であると分かりました。
「それだけあれば新しい生活をするには充分でしょう。盆暗な跡取りには過ぎた金額だ」
 最後にそう言って、僕は家を失いました。とぼとぼと家だった場所を出る時、一匹の羊だけが僕の後をついてきました。
 僕に一番よく懐いていていた、羊のナンナンでした。

 そうして、ナンナンとふたりきりで大金を持ったまま宿を探して街を歩いていたのが多分、昨日のことです。
 繁華街に入るころ、突然後ろから頭をガツンと殴られた感じがしました。受身を取ることもできず道に倒れこんで、口に砂が入ったのだけは覚えています。
 覚えているのはそこまでなのです。
 今は外が明るいので、多分翌日の昼なのではないかと思っています。
 おそらくは、誰か僕が持っているお金を狙った強盗に襲われたのだと思います。その証拠に皮袋だけがなくなっています。
 ここは、多分宿屋だと思うのですが、それ以外の荷物はベッドの下に置いてあります。ベッドの下からナンナンが僕のことを見ています。道に倒れているところを誰かに助けられたのでしょうか。
 お腹は、不思議と空いていません。最後に食べたのは多分一昨日の夜だと思うんですけど。
 お父さんの葬儀はきちんと行われたのでしょうか。あの連中が、多分関係者が集まると不利になると思ったのでしょう、ちゃんとするといってお父さんの遺体まで僕から奪いました。
 僕は何か悪いことをしたのでしょうか。
 ナンナンが鳴いています。

 誰かがドアをノックしています。
 助けてくれた人でしょうか。


 簡単に話を聞きました。
 僕を助けてくれたのは、冒険者ギルドの方だそうです。
 ギルドの名前は『C.A.S.W』。
 さっき部屋に入ってきたのはギルドリーダーのモッズさん。バリスタなのだそうです。
 ただひとつ、いや二つ不思議なことがありました。
 僕が倒れていたのは繁華街近くの道ではなくて、この宿屋の前だったそうです。
 もうひとつ、今日はあの日から三日経っているのだそうです。
 なにがどうしてそうなったのかは分かりませんが、ひょっとしたら動かない僕をナンナンが運んでくれたのかもしれません。

 それはともかく、モッズさんに事情を説明したところ
「帰る家も金もないってんなら、うちのギルドで一緒に冒険者でもするか?」と申し出ていただきました。
 他にあてがないので、僕なんかでいいのですかと聞くと、「ん、困った奴を見捨てて置けない性分でね。それに、賢者ノージ曰く『こいつの使い道はまだあるぜーっ!!』ってな。どんなヤツでも何かの役にゃ立つんだ。食い扶持を稼いでもらえる程度には働いてもらうから覚悟しとけ?」と言ってくださいました。
 僕はそのノージさんという方を知らないので意味はよくわかりませんでしたが、とにかく僕でもギルドの一員として参加させていただけるとのことなので、これからはこのギルドで冒険者として頑張って行こうと思います。前向きなのがお前のいいところだとお父さんにも良く言われました。
 ナンナンがすりよってきました。そうだ、この子はどうなるんでしょう。冒険に連れて行ってもいいのでしょうか。そのへんも含めて、後でモッズさんに聞いてみようと思います。今はまだ、頭がぼんやりしているので少し眠ろうと思います。
 最後に一応確認、僕の名前はナナビー。農場を追われたファーマー。これは間違いない。


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